臨床心理士が伝えたい心のお話

臨床心理士としての臨床経験から不安や苦しみを紐解いてみます

「発達障害」の視点で見ることが必要な理由

気持ちや意思の問題か、脳の機能的な作用によるものか

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気持ちや意思の問題か、脳の機能的な作用によるものなのか。

気持ち意思の問題だけでない見方、別の視点があると知っておくことは、場合によっては子育てをする上で必要なことかもしれません。

情緒的な問題の場合はもちろん気持ちに丁寧に対処していきます。しかし、「発達障害」の場合は気持ちや意思に訴えるだけの対処になると、二次障害(自尊心の低下、情緒の不安定、不適応等)を引き起こしたり、親が疲れ切ってしまい親子関係の悪化につながることもあります。

 「発達障害」は脳の機能や発達が通常とは異なるために症状が現れるとされていますが、明確な原因は未だ解明されていないようです。

脳の働きそのものが人間の生命の神秘であると考えれば、そもそも原因を探ることが困難なのは当然のことかもしれません。

また、脳の働きが一人ひとり異なるのなら、本来は優劣をつけるものではないはずです。しかしながら脳の性質や機能によって、"ある社会”"ある集団"においては「逸脱した状態」「困った状態」「問題行動」となる、あるいは本人がそう感じる、ということもまた起こり得ています。

(*もちろん逆もありますね。「卓越した才能」「没頭する能力」「芸術性」とか)

問題の背景にあるものを見立てる

例えば『盗みをした子ども』

起きたことは疑いもなく「問題行動」です。注意や叱責をする事は必要なことでしょう。

ですが「なぜそのようなことをしたのか」、原因や背景を探るには「問題行動」という見方をいったん脇に置いておく必要があります。

起きたことは「問題行動」でも、その子どもに「問題がある」ということではありません。「子どもに問題がある」を外して見ることは、子どもの内面で何が起こっているのかを知る上で重要なことです。親が子どもの問題行動に動揺するは当然ですが、対応する側の怒りや落胆といった感情は、子どもの内面に対してニュートラルに見る目を曇らせます。対応する側の心をいったんニュートラルに戻すことが、問題の背景にあるものを見立てるコツと言えるかもしれません。

 冷静な目で見たときに、「盗み」の背景にあるものとして、例えば次のようなことがあげられます。

・SOS(寂しさ、不安など)を盗みという形で発信していた

・目の前に欲しい物があった

・他者からの強要

・その他

気持ちの問題に対処する

「問題行動」は盗みに関わらず、注目してほしい、という表現として捉えることも重要な視点です。"今、この寂しさ、不安、ストレスをなんとかしてくれないと、どうにかなっちゃいそうだよ”、と無意識に訴えている可能性があります。

今置かれている環境や親子関係、友人関係を見回したとき、あるいは本人にとって何か負荷がかかっている状況が見えたとき、もしSOS発信の可能性が見えたなら、気持ちを丁寧に聞いて受け取っていくことが第一優先になります。場合によっては環境を変える必要もあるかもしれません。(このあたりのことは別のテーマで書きます)

発達障害の視点で見たとき

 もし、次のような様子が見られるのなら、発達障害の視点から対処した方が良いかもしれません。

・叱責した時には涙を流して反省するが、話が終わるとすぐに笑ったりしている

・強く叱責しても、また繰り返す

・理由を聞いても「よくわからない」「欲しかったから」など、短絡的な答えが多い

・状況によってすぐばれるような軽いウソをつく

・日常的に忘れ物が多い 

気持ちや意思の問題だけではなく、目の前に欲しい物(刺激)があると考えや判断が抜け、"すぐ盗る”という行動に移っている可能性があります。

欲しい物が目の前にあって、「これを盗んだらまた怒られるかな」「お母さんに嫌われちゃうな」「警察に見つかったらどうしよう」とい考えが抜けてしまうようです。

怒られている時には本当に悪かったと反省をし、もう二度とやらないと心から誓うのですが、そういったものが全部吹っ飛び、またやってしまうのです。

ところが親は、再び同じ事をやった子どもに心底落胆します。自分の子育てが間違っていたのではないか、愛情が足りなかったのか、色々な事を考え落ち込み、自分を責めたりします。

盗みという行為が本人の意思とは関係なく起こっているとしたら、叱責や気持ちに訴えたり、本人の意思の力に期待することは、親子をさらに苦しめてしまうことにもなります。きちんと子育てに向き合っている親ほど苦しくなります。

ではどう対処するのか。

発達障害の視点での対処

前提として、発達障害がその人の全人格を表しているわけではありません。両親から受け継いだ性格や気質、育ってきた環境、人間関係などから人格は形成されていきます。

その上で、発達障害で言われるところの特性が混じっているのです。その度合いもまた人によって違います。ですから、ワンパターンの対処法のみ、ということがあり得ない事は強くお伝えしたいところです。

 では、一つの例として、盗みの行為にどうのように対処するのか、大雑把に書きます。

・「盗みの行為」について本人はやめたいと思っているのかを確認(とても大事です)

・「やめたい」ことを前提に、「今度欲しい物が目の前にあったらどうするか」話し合う(実現可能な範囲で)

・もし「欲しいものが目の前にあったら盗ってしまいそう」(ここで怒らないように)と本人が言えたら、その環境やシチュエーションをなるべく遠ざける

・欲しい物があるシチュエーションに置かれた時、「盗まなかった」ら、その事をほめる

大切なことは盗ってしまいそうな気持は否定せず受け入れる、ということかもしれません。もちろんダメなことは明らかですが、それを怒りすぎてしまうと、隠すようになっていきます。隠されたりウソをつかれると、結果的にはその行為に対して対処できないまま親の目が届かない年齢になっていきます。そうなると親ができることは少なくなります。「悪い」とされている事を止められない言われ、それを受け入れるのはとても難しいことですし、この通りできないからと言ってそれもまた自分を責める材料にする必要もありません。

ですが、気持ちの問題だけではない、と捉えることもまた、親の気持ちを客観的にし、客観性を持たせる方が楽にはなることもあります。

「何度も繰り返す」をどうしていくか。何度も怒るしかないかもしれません。ですが、親ではあるけれど、サポーターのような役割になることで、その「問題行為」は子どもの成長過程での「課題対処」に変わり、結果的に親子の信頼関係や子どもの自尊心がマイナスの方向に大きく傾くことを避けられるかもしれません。

どこまでが気持ちの問題か、どこまでが脳の作用なのか、はっきり断定することはできません。結局は子育てで最も大切な「その子をよく見る」ということで、どう対処するのかが決まてくるのだと思います。

 

発達障害と「盗みの行為」を関連づけたり断定する趣旨ではない事を強調いたします。

*このブログは臨床心理士としての経験的側面から書いています。医学的診断や根拠を上回るものではありません。

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