臨床心理士が伝えたい心のお話

臨床心理士としての臨床経験から不安や苦しみを紐解いてみます

発達障害 子ども編 「宿題をやらないのは怠けているだけ?」②見通しが持てないということ

  見通しが持てない、ということの影響

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「見通しが持てる」ということは、

問題解決に向かってのステップを組み立てられること。

優先順位をつけて、初めから終わりまで効率良く計画を立てられること。

頭の中の整理ができること。

 

頭の中で「整理された見通し」は、きちんと予定が書き込まれた手帳のように、スムーズな行動につながっていくための重要な要素です。

あるいはテスト勉強で、どの教科にどのくらいの時間を割くべきか検討し、計画的に実行するためには、やはり「見通す能力」が必要です。

 

見通しが持てることと、気持ちや気分との関係は少なからずあって、メンタルにも影響を及ぼします。

見通しのある頭の中はクリアで 、様々な情報が入ってきても随時整理されるため、スムーズな行動に結びつきやすく、心の負担はそれほど感じずにすむでしょう。

 

では見通しが持てない場合はどうでしょう。

たくさんの情報が入ってきても、どれが重要で、何を優先すべきか、瞬時に判断できません。情報は頭の中にたまっていく一方です。入力ばかりで出力ができません。出力するための小さな糸口を探すことすら困難になっていきます。

手帳はあっても、書き方が分からなかったり、書き込むことはしてもその予定を実際の時間に当てはめて行動に移すことができなければ混乱するかもしれません。

テスト勉強では、見通しがないままその量の多さに圧倒されれば、計画を立てる前にやる気をなくしてしまうことは、容易に想像ができることです。

 

「見通しが持てない」ことは、思考の混乱につながり、整理できないまま不安ばかりが大きくなっていくことにつながる可能性があります。

あるいは、なす術がないまま無気力状態になってしまうかもしれません。

 「宿題をやらない」ことと、見通しが持てないことは関係するか

・宿題はいつも夜遅くなってからようやく始める。

・宿題ができなくて癇癪を起こす。

・一つ一つやればできるのに、たくさんの問題が書いてあるプリントを見るとやる気をなくす。

 

もし、本人に「宿題はやらなければならない」という気持ちがあって、それでもいつもこのような状態になるなら、「見通しが持てていない」のかもしれません。

・宿題はいつも夜遅くなってからようやく始める。

 ⇒学校から帰って夜寝るまでの時間をどのように「見通している」か

・宿題ができなくて癇癪を起こす。

 ⇒宿題の内容をじっくりと「見通し」、考え、理解しようとしているか

・一つ一つやればできるのに、たくさんの問題が書いてあるプリントを見るとやる気をなくす。

 ⇒視覚的な情報量の多さに惑わされず、一つ一つ着実に取り組めば、最後までできるという「見通し」はあるか

 

ほかに例えば、

・何をするのでも時間を見ていない。時間の感覚がない。

・次に何をするのか分からず戸惑っていることが多い。あるいは何をしたら良いかよく聞いてくる。

 

ということが日常生活でよく見られるなら、「見通しが持てない」ことによってこのようなことが起きている可能性があります。

つまり、やるべきことの全体を見通して整理し、優先順位をつけて、時間感覚とすり合わせながら配分を考えていく、といった一連の思考が働きにくい傾向があると言えるかもしれません。

(これについて、良い、悪い、の概念は前提にないことを強調しておきます)

 

表面的には分からないことですが、「見通しをどのくらい持つことができるのか」という能力にはかなりの個人差があるようです。

見通しをもつことと、時間感覚の関連性

時間というのは、感覚です。時計はあくまでも現在の時間を示すものであり、例えば「1時間後」というのはあくまでも数文字でしかありません。

では「1時間」はどのくらいの時間感覚か、と言えば、それは人によって異なるでしょう。感覚的にほぼ正確につかめる人もいれば、全く分からないという人もいます。もし時計がない生活をしたら、たちまち混乱する人も多いかもしれません。

「1時間」という数文字から、時間という量への置き換えは感覚的なものにも関わらず、見通しをもつためには不可欠なことです。

ですが、実際は内面的な能力のために人がどのくらいの感覚で時間を感じているかを知ることはできません。それゆえ、"普通の感覚”、"年齢相応”な感覚で見てしまいがちです。

そうなると当然、宿題をやらない我が子を見て『なぜ早めにやらないの?』『なぜ時間を見て動けないの』『なぜ切り替えができないの』という言葉が出てきます。

前回の「判断」のところでも書きましたが、「やらないのか、やれないのか」で言えば、実際はやれないのかもしれないのです。

 「見通しを持てない」を『発達障害』の視点から見てみると

 どのくらいのくらいの「見通し」を持てているか、客観的に測ることは難しいですが、どうやらそれは頭の中の整理と時間感覚に関連しているようです。もしそれが日常や学校、社会生活に影響して本人が困ることなら、「判断」でも書いたように、『発達障害』の視点からの理解と対応が役に立つと考えます。

発達障害について⇒【厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html

『注意欠如多動症ADHD)』の主な症状は、「多動性」「衝動性」「不注意」ですが、「見通しがもてない」ということは、「不注意」のカテゴリーに当てはめて考えることができます。

そして「不注意」の症状は、他の二つの症状よりも"目立ちにくい”、あるいは"怠けと誤解されやすい”、症状でもあります。それゆえ、見過ごされることも多く、あるいは叱責されやすく、本人は人知れずに困っていて、やがて別の形の「不適応」といった症状として現れる可能性もあります。

もちろん、見通しが持てないからといって、全ての人が困るわけではありません。本人の困り感は、遺伝的・気質的な性格や、育ってきた環境、現在の周囲の環境によって左右されるところが大きいと思います。

そのようなことも、どう対応していくか、サポートしていくか、といった時には十分考慮する必要があります。「不注意の傾向による見通しが持てない人」に対しての対応を、ただ一つのやり方として型通りに当てはめると、うまくいかないことが出てくるのです。

「見通しが持てない」ことにどのように対応するか

内的な思考過程に、外からなんらかの操作を加えようとするのはとても難しいことです。ですから、やってみて、検証し、またやってみて、といった試行錯誤はどうしても必要になってきます。

これには対応する側(親)と対応される側(子ども)の性格や相性にもかなり影響されます。逆に言えば、型通りのやり方がうまくいかないからといって、自分を責める必要はないのです。このことについてはまた詳しく書きます。

 

さて、ではどのように対応するかということですが、基本的な考え方として、

・"年齢相応”を基準にはしない。

・アイデアを惜しみなく伝える(優先順位や見通しをつける方法)。

・視覚的に情報・量を整理する(頭の中の混乱を出力)。

・時間の量を分かりやすい形に置き換える(時計・タイマーの活用など)。

・一緒に取り組む。

・経過をフォローする。

 

などといったことになるでしょうか。実はとてもシンプルです。すべての子育てに通じるところがあります。

ADHDの「不注意」の対応の仕方については多くの情報も出ているので、ご自分に合うものを参考にしても良いですね。

では具体的に、となると、実は複雑です。

先にも書いたようにそれは子どもの性格や状態、親の性格によるところが大きいので、状態をお聞きしながら丁寧に伝えていく必要があります。また、子どものそのような傾向は長期にわたっていくので、子どもの成長とともに対応も変えていく必要があります。ですので、親がサポートを受けながら子どもに対応していくということも、とても有効なことだと思っています。

また具体例などで書きたいと思います。

 

 

 *このブログは臨床心理士としての経験的側面から書いています。医学的診断や根拠を上回るものではありません。

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